アレルギーに鍼治療が効果があるとご存知の方は少ないと思います。当院に来院する方も最初からアレルギーの治療で来院する方はまれです。当初は腰痛など他の整形外科疾患で来院し,治療の過程で「そういえば鍼をするようになってからアレルギーがましになってきた。」と初めて気付き,腰痛などが治ってからもアレルギーの治療を継続されていく方が大半です。アレルギー治療が目的で来院する方も,まず皮膚科,耳鼻科などを受診され、ありとあらゆる健康法を試し最後に鍼治療にいらっしゃいます。皆様最初は半信半疑です。
同じ環境で暮らしていても,多数の人が何ら反応を示さないのにある人にのみ違う反応が現れる、また同じ人で同じ条件でもその時々で反応が出るときと出ないときがある。これは個人の体質の違い、その時々の体調・抵抗力の違いによるものと考えられます。「アレルギー体質」という言葉があるようにアレルギーには体質が大きなウエイトを占めています。体質が改善され抵抗力が上がればアレルギーの素因はあっても自ずと症状は抑えられます。個々の身体に合わせ体質を改善し抵抗力を上げ症状を抑えることは鍼灸治療のもっとも得意とするところで、再発しないよう体質改善を図れる場合さえあるのです。
アレルギーとはドイツ語で「変わった反応」という意味で特定物質に対する過敏反応のことを言います。つまり身体に入った特定の異物(抗原)の害に対して必要以上の攻撃を加え、正常な組織にまでダメージが生じる過剰免疫反応のことをさします。
1906年にオーストリアの小児科医がアレルギーを起こす抗原物質をアレルゲンと命名しました。日本では1965年頃から増加しはじめた比較的新しい疾患です。原因は生活環境と遺伝と考えられています。食品の欧米化による食生活のみだれ,大気汚染などの環境アレルゲンの増加,複雑なストレス社会等によりわずかの期間で「国民病」とまで言われるようになってしまいました。今や国民の5人に一人以上は何らかのアレルギー疾患に罹患してると言われてます。
アトピー性皮膚炎、花粉症などのアレルギー性鼻炎、気管支喘息がアレルギーの代表疾患ですが、その他にも蕁麻疹、食物アレルギー、薬物アレルギーなど多岐にわたり、また児童の注意欠陥多動性障害、鬱、ノイローゼ、などもアレルギーと見る学者もいます。
鍼灸治療ではアレルギーすべての疾患に効果は見込めますが、特に治験の多いのはアトピー性皮膚炎、花粉症です。
アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎とはアレルギーを伴う湿疹を主な症状として現す病です。発症は乳幼児期に最も多く6割が4歳までに発症しています。しかし最近はストレスが原因で思春期以降,中には30代以降に発症するケースも珍しくなくなっています。
具体的な治療ですが、私共が所属する東洋はり医学会ではアトピー性皮膚炎を起こしやすい体質を,次の3つに分類しそれぞれの体質で治療を組み立てています。
① ストレスにより肝臓の解毒機能が低下しているタイプ、この体質は甘いものを好み水分を多く摂取し、体格は肥満が多く梅雨から夏にかけて悪化するケースが多くみられます。
② 腸が弱く便秘や下痢をくりかえすタイプ、女性に多く痩せ気味,色白で乾燥してザラツキのある皮膚が多く、しかも僅かな刺激に対しても過敏です。秋から冬にかけて悪化するケースが多くみられます。
③ 排尿に問題があるタイプ、高齢者に多く肌の色は黒く多汗,皮膚が湿っぽく夏に悪化するケースが多くみられます。
それぞれ肝臓の機能回復,便通の改善,排尿の改善に重点をおいての治療になります。要は不要物が対外に出ない原因を見極め改善すれば良いわけです。いずれのケースも敏感な方が多く,鍼も灸も全く感じない程度の弱い刺激の治療が中心になります。アトピーを含めアレルギー疾患は治療に長い期間を要する疾患です。痒みが軽減するなどの治療効果は比較的早く出ることも多いですが,目に見えて変化が実感できるまでは週1回程度の治療を3ヶ月程、完治までには1年は治療を継続する必要があります。
アレルギー性鼻炎(花粉症など)
花粉症に代表されるアレルギー性鼻炎の現す症状は,薬品のテレビコマーシャルで一般にも知られるとおり,くしゃみ・鼻水・鼻づまり・目のかゆみ・喉の腫れ痛み・頭痛・頭重などです。頚から上の症状が殆どです。東洋医学ではこれらの個々の症状は勿論ですがこの「頚から上」に最も着目します。患者さんの話を伺うと鼻炎の季節になると「のぼせる」「顔があつい」「上半身,特に顔に変な汗をかく」と言う頚から上の症状と、それらとワンセットで「下半身が冷える」と訴える方が多いのに気が付きます。よく「頭寒足熱が身体によい」と言われますが逆になってしまった症状です。また,全く汗をかかず全身寒がりで小水が近いと訴える方もいらっしゃいます。前者はくしゃみ・鼻水を主に訴える傾向が強く、後者は鼻づまりを訴える傾向があります。要はもともと体温調節に問題がある体質がこの季節になると悪化するわけで、ここが改善されればアレルギー性鼻炎の症状は自然とおさまりますし治療はそう難しいものではないのです。1~2回の治療でそのシーズンは全く症状が出ない方もいれば3~4日は調子がよいが症状が戻ってしまう方とさまざまですが、治療毎に調子のよい期間が長くなりシーズンをのりきる方が多いようです。