五十肩は,何もしなくても時が来れば必ず治る病です。しかし大変つらい病です。痛みの度合い・痛む期間は人それぞれですが、酷い場合は身体から腕が離れない・脇の下に反対側の手も入れられない、疼いて眠れないほどの痛みが数ヶ月から何年も続くといったケースもあります。「必ず治るとは言っても治せるのであれば一刻も早く治したい」「せめて痛みだけでも軽減したい」と願うのは当然です。しかし五十肩は腰痛などの他の整形外科疾患に比べ治し難い病でもあるのです。
病院に行っても効果があった話はあまり聞いたことがありません。何もしなくともいずれは治る為か「老化現象」でかたずけられてしまいます。温熱療法やストレッチングをやってれればまだ良いほうで,湿布と飲み薬を投与されるだけで終わりの所が意外と多いようです。
マッサージに行っても肩こりであれば対処できても,五十肩となると殆ど効果は期待できません。1日だけでも軽くなればもうけものです。
鍼灸院でも五十肩にはてこずるケースが多いようで,経験も実績も豊富な先生でさえ「本音を言えば五十肩だけは苦手」と言う話はよく聞きます。私が鍼灸学校を卒業して最初にインターンでお世話になった先生も冷え性による腰痛・肩こりの治療はとても上手で患者さんの絶大な信頼を得てましたが、当時五十肩には大変な苦手意識をもっていました。当然治療効果はあまりはかばかしいものではなかったと記憶してます。
五十肩という言葉は江戸時代中期の文献にもあります。当時は五十腕とか長命病とも言われていました。五十歳が長命であった時代ならではで五十歳位まで長生きすると肩や腕に痛みが出るためこう呼ばれていました。
五十肩と呼ばれるものは現代医学では「肩関節周囲炎」と呼ばれ,類似の疾患には腱板炎・石灰沈着製腱板炎・上腕二頭筋長頭筋炎・肩峰下滑液包炎などありますが、一般にはこれら全てを五十肩と言っているようです。
定義は「退行変性(老化現象)を基盤に軽微な外傷や血行障害が加わり肩関節周囲の軟部組織に炎症を起こし肩関節に疼痛・拘縮・可動域制限がおこる。」ことをです。俗に「使い病み」とも言われ利き腕に発症する率が高くなっています。
治療は経絡治療の原則に従ってするだけで特別なツボがあるわけではありません。あえて他の治療との違いをあげれば病気の時期によって刺激の量をいかに調節するかだけです。
「症状が重いと強い薬を投与する」のは現代医学では常識です(勿論患者さんの体力を考慮に入れてですが)。状態が良くなければ強い刺激を・・と考えがちですが鍼灸治療では必ずしもそうではありません。刺激量の見極めと弱い刺激をどう使いこなすかで効果に大きな違いをもたらすのです。強い刺激で効果をだすことは鍼灸学校卒業したてのインターンでもある程度可能です。強い刺激にも勿論技術の差はでますが,経験の差が最もでるのは弱い刺激を使いこなせるかどうかなのです。五十肩は厄介ではありますが,鍼灸治療が最も痛くなく、しかも早く効果を出すことが出来ます。
効果のでかたは人それぞれで症状が軽ければすぐ治るとも限りませんし,重ければ治りが悪いとも限りません。むしろ症状が重いほうが劇的に改善されるケースが多いようです。